2015年10月21日水曜日

第1セクション キルピスヤルビーアビスコ その2

四日目。
風の強い日。雲も多め。日が隠れると寒さを感じます。
ルート上は湿地だらけ。シューズは濡れっぱなし。ちょっともうあきらめました。


強い風の中に現れたのは30m弱の幅の大きめの川。ひざ下ほどの深さの水はとにかく冷たくシューズを履いたまま渡渉することにしました。ザックが風に押されて体が振られます。緊張を強いられる渡渉でした。渡りきったときの脱力感たらありません。
川から直登ぎみに峠に進んでいるとさらに風が強くなってきました。
止まっていると体が冷えるので休憩は一息つくだけ。奥さんはゴホゴホし始めていて体調もイマイチな様子。早めに切り上げたいけれど、こんなに風が強くてはテントを張ったところで落ち着かない。そもそも岩が多いのでペグを打つのも難しいとなるとテントが飛ばされてしまいそう。なかなか厳しい状況です。風の弱い落ち着いた場所を探して進むしかありません。

と、峠の上に人影が。
赤いヒゲのハイカーが立っていました。挨拶をして少し立ち話。彼はこのエリアに入って54日目とのこと。風をまったく気にしていない様子でなんだかそもそも身体の作りが違うようです。風が強いなんてここでは当たり前すぎて気にしてないだけかもしれないけど。

奥さんは彼に「赤ひげ」とそのまんまなアダ名をつけて「グッドラック ハッハー」と言っていたと勝手に口癖を作って笑っていました。気分転換になったようでなにより。

その後、私は湿地で転んでフリースを泥まみれにしたことでなぜか気分か切り替わって楽しくなってきました。どうしょうもないねって思うと気分は上昇するようです。


風は相変わらず強いものの歩き慣れてきたこともあってテンポよく余裕を持って歩けるようになってきました。
峠を越え平らな道を進むと最後は緩やかに下る谷の上。視界が開け眼下に小屋が見えました。今日目標にしていた30km先のDividals hytta小屋です。もう30km? そういえば途中の道標には25kmって。どっちでも目標距離は達成しているのでまぁいいとしましょう。奥さんはだいぶ無理して歩いてくれたようです。感謝感謝。
この日は小屋の脇にテントを張りました。テントを張ったら雨が降ってきたのはお約束。
一晩中雨、風ともに強く落ち着いて眠れない夜でした。

五日目
出発前に雨はやんで天気が回復傾向になりました。
トレイルは川に向かって下りていき森の中へ。川沿いは蚊が多く止まって休憩することができません。とにかく早く抜け出したいとショートカットの道標に従って進みますがすぐに道を見失い結局は戻ることに。その間も蚊に刺され続けて痒いこと痒いこと。
元の道に戻って橋を渡りつぎの峠に向かって高度が上がっていくと蚊も減ってようやく落ち着いて歩くことができるようになりました。
眼下の流れは青くて見た目に涼しく滝も爽やかに見えて暑さを感じる登りでも気持ちは爽快でした。11時近くになると風が強くなってその後は一日中強風。さらに蚊が減って快適になっていきました。
 道中に珍しく木道が設置されていて、あまりの歩きやすさに感動を覚えてみたりするわけです。高速道路だねぇなんて言いながらスタスタと。さすがのノルウェー人もここに木道がないと大変なことになるというのが分かっていたようで何よりです。

 
怪しげな道標に惑わされることなく進み、森を抜けていつもの北欧トレイルに戻ると年配のハイカーとすれ違いました。お互いに英語が下手でイマイチ話がかみ合わないのですが、地図を見せながらどこから来たのかと何日目かとここは素晴らしいとどうにか伝わったのではないかと。あちらは11日ほどこのエリアを歩いているのだということはどうに理解できた感じです。(ちなみに、地図を見せた時に老眼鏡をかけていたので彼はローガンさんということになりました。)

トナカイ先輩に睨まれつつもそれから1時間半でVuoma hytta小屋に到着。
強い風を避けるように小屋の脇で休んでいると向かいの小屋から青年がこちらに歩いてきて話しかけてくれました。ヘンドリックと名乗るその青年は6ヶ月ほど日本に留学したことがあると日本語混じりに話してくれるのですが心の準備ができていなかったのとちょっと疲れていることもありあまり言葉が出てきません。会話も弾まず・・・ちょっぴり気まずい空気。悲しそうな顔のヘンドリック。日本人相手に楽しい会話をしたかっただろうに。
ごめんよ、ヘンドリック。

申し訳ないことをしたねと話しながら再出発。
しかし、今日の目標だったVuoma hyttaに到着してしまったことで奥さんのモチベーションがダダ下がり。まだ早い時間だったので少しでも距離を稼いで今後を楽にしたいところですが無理をさせても仕方がないので早めにテントを張ることにしました。
風が強いので風が避けられるところを探して歩きます。低いとこを見て回りますが湿地だったり石が多かったり。一度、窪地で試してみますがペグが奥まで刺さらず風で倒れそうなので断念。峠への登りを30分以上歩いたでしょうか。ようやく水のない深い窪地を発見してテントを張りました。
雨も降り出してテントの中でここまでのこと、これからのことをボンヤリ考えながら過ごします。

自由にテントを張っていいということで歩いていても快適な場所というのは少なく毎日多少なりとも妥協していました。この日も風を避けられることを最優先させたので水場の近くではないし風景もよくはありませんでした。それでも、風をうまく避けることができてテント内だけは快適な場所を確保できたことが嬉しくちょっと誇らしい。
 毎日、違った風景と何らかしらの困難。常にFunな状態ではないけれど考えて行動して解決したり諦めたりしてどうにかこうにか進んでいけるこの状況。余計なことを考えずに歩けることは幸せなのかもしれないなと思うのでした。

2015年10月7日水曜日

第1セクション キルピスヤルビーアビスコ その1

14時30分にキルピスヤルビのホームセンターを出発。
初日はフィンランド、スウェーデン、ノルウェーの三国国境を目指します。
 三国の国境は有名な観光地なので最初に駆け込んだホテルの受付で情報を教えてもらえました。トレイルまでは5kmあって途中2kmのところにショートカットできるボート乗り場があるとのこと。ボートには乗らない予定で歩き出してはみたものの、舗装路歩きはつらいもの。歩き出しは荷物も重く10分くらいで心は折れ気味。ボート乗り場へ行ってみることにしました。
もうちょっと観光地っぽいボート乗り場を想像していたのですけどもね。本当にここなのか疑うレベルでした。手前の小屋の時刻表を確認すると次の出発は2時間後。なかなか微妙な時間です。
初日からボート待ち2時間はないでしょうってことで仕方なくトレイルまで歩くことに。
トナカイ先輩とすれ違いつつ。3km先のトレイルの入り口まで。
舗装路の脇の砂利道に道標があってそこからトレイルに入っていきます。
「スタートです!ババーン!」みたいな入り口を期待していた奥さんはちょっとガッカリしたようでした。そもそもトレイルの途中から歩き始めるので仕方のないことなんですが、国立公園の入り口でもあるのでもう少しなにかあっても良さそうだとは思うのですけどね。
そんなことを思いつつも、やはり北極圏トレイルを歩き始めたという高揚感に包まれていました。先ほどまで感じていた荷物の重さもあまり感じなくなっています。
前半は北極圏らしい原野で坂を登るたびに気持ちのいい景色が広がります。素晴らしいなって思って振り返ると奥さんが「素晴らしい景色だね。」と。同じことを思ってくれていて嬉しかったです。

しかし、意気揚々と歩いていたのは行程の半分ぐらいでしょうか。高度が下がって森に入ると渡渉あり湿地ありで1つ1つは楽しいものの進みは遅く、移動から休むことなく歩き始めているので疲れも出てきました。
シューズをグショグショに濡らしながらどうにか国境に着いたのは21時を過ぎたころ。
荷物を置いて木道を歩き湖の中の国境点に向かいます。そして2周回って国境を歩いて跨ぐことを満喫。トレイルに戻ってスウェーデン側に移動してテントを張りました。
(フィンランド側の国立公園内はテント泊禁止だったためです。)

二日目は6時起床。夜に雨が降ったらしくテントはビショビショに濡れていました。乾くのを待ちながらゆっくり朝食を食べ8時に歩き始めました。
 トレイルというか原野の中はどこを歩いてもよいのですが、積まれた石にペンキが塗ってあるマークに沿って進むと踏み跡があって歩きやすいのです。道を外すといきなり崖の上だったり湿地の中だったりするのでショートカットするよりも設定通りに歩くほうが結局は早いという結果に。
トレイル従っても湿地にまっすぐ突っ込んでいくこともあるのでトレイルランシューズがいつも濡れっぱなしなのはなかなか萎えますけどね。

雲が多い空模様で気温も低くなくハイキングにもってこいのこの日はのんびりと歩いていました。私も奥さんもランナーなので1日20kmは余裕でしょうと。トレイルランのレースだったら4〜5時間で到達する距離なんです。日が沈むのが22時過ぎですし10時間ぐらいは歩けるんじゃないかと。つまりは1時間に2km進めばいいわけでかなりのんびりしていました。ゆっくりで楽しいハイキングだねぇなんて話していたころ道標があって3時間で2kmしか進んでいないことが判明します。
 まったく進めていないことに驚きました。1日20kmの設定だとのんびりとはいかないようです。しっかり歩いてしっかり休憩ということに方針変更で進みます。

ひと雨あった後、15時ごろに小屋につきました。スウェーデンでは小屋番の人がいてハイカーを迎えてくれます。軒下を借りて雨具を脱ぎ休憩。小屋番のおじさんとカタコト英語で近くに素敵な滝があるんだとか、なんでこんな北の地まできたのかという話をしました。このあともなぜ日本人がここに来たのかという質問はよく質問されました。さまざまな理由が重なってきているのですけども、広い場所と長いトレイルが日本にはないということと姉がヘルシンキにいるからということぐらいしか伝えられないのが残念なところ。


小屋の周りは広い平原で気持ち良く歩けました。
3kmほど歩くと国境の看板がありました。道標がなくなっていたのでこの看板を目指して歩いていましたが湿地でズブズブ。あとから見つけた踏み跡から20mぐらいは離れていたところでした。湿地は踏み跡が消えてしまうのと、踏み跡があっても濡れないようにあちらこちに散らばるので辿っていくとトレイルを大きく外れることもしばしば。やっかいなところです。

それから30分ほどすると疲れも出始めたので湖を回り込んだ少し高いところでテントを張りました。直後に雨が降ってきたので無理に進まなくて正解だったかもしれません。
「16kmしか歩けていなくて焦る」と日記には書いていました。

三日目
朝から快晴で夕方まで暑いぐらいの気温でした。
4kmほど歩くとノルウェーで始めての小屋。
ノルウェーではツーリストインフォメーションなどでデポジットを払い鍵を借りるシステムで小屋番はいません。中を覗くとガスレンジ、薪ストーブやベッドなど快適そうな小屋でした。残念ながらフィンランド側からトレイルに入った我々は鍵を持っていないので外から眺めるだけです。

小屋の脇は大きい川だったので持参したテンカラ竿で釣りをしてみました。
しかし、残念ながらまったく反応なしでボウズでした。そこで出なきゃでないよねって場所にもキャストしたので魚はいなかったということにしておきます。
そして、釣りしている間にいろいろなことろを蚊にさされたのでした。
午後になると岩が多く転がる場所に歩くことが多くなかなか進みません。奥さんは滑って足首をひねってしまった様子。午前中テンポよく歩けたので最終的には20kmを達成することができましたが、奥さんには少し無理をさせたので明日が心配です。

蚊について
トレイルには大きな蚊がたくさんいます。大きいので刺された瞬間痛いです。
長袖を着ていても布の上から刺されるので肌を出して虫除けを塗っていたほうがマシなぐらいです。ヘッドネットは必須です。帽子をかぶっていないと頭も刺されます。歩いているときに一番動かない肩はボコボコになりました。
昼食のときもテントを張るときも蚊取り線香がないとやってられません。
蚊取り線香は重さが許すかぎりたくさん持っていくことをお勧めします。